三章　「『幸せ割引』①〜ショッピングや遊び代」

　『幸せ割引』とは、自分の『幸せ度合い』の高さによって、様々なものを割引価格で買えたり、サービスを優遇して受けられたりする制度のことだ。

　確か『幸せ度合い』が見えるようになってしばらくしてできた制度だと思う。

　私は『幸せ度合い』と同様に、『幸せ割引』もいい制度だと思っている。

　だって、幸せであればあるほど、優遇されるなんて幸せの相乗効果だから。

　私は今日はどこにデートに行こうと考えた結果、カラオケにしようと思った。

　起きた彼にそのことを言うと、「いいよ。カラオケに行こうか」と垂れた目を細めて笑顔でそう言ってくれた。

　私はどちらかというとつり目だから、二人を足して二で割るとちょうどいい感じになりそうだといつも思っている。

　でも、彼のその垂れた目も、笑顔も彼をふわふわとした雰囲気にしていてまたかわいらしい。

　私は急いで、服を着替えることにした。基本私は行動をするのになぜかすごく時間がかかる。

　少しでも彼に「かわいい」と思ってもらえる格好はどんなのかなと気分が急に上がってきた。

　少しでも彼にドキドキしてもらいたい。

　身長も153センチと中途半端で、スタイルも特別よくない私だから、服装で少しでもかわいく女性らしく変身したい。こうやって鏡を見るたびに、彼の顔は小さくていいなといつも思う。私の顔も特別大きいわけではないけど、彼の顔は男性にしたらかなり小さいと思う。

　私は歌を歌うことが好きだ。デート先として『カラオケ』は、私たちの間では結構定番のものだ。

　もう恋人同士じゃないけど、私たちは二人で遊びに行く時、『デート』という言葉を使う。

　夫婦になったからといって、デートしちゃダメなことはないと思っているから。彼もその考え方はいいねと言ってくれている。

　そもそも彼とどこか遊びに行けるなら、私にとってそれだけで素敵な時間だから。

　私は走っていき、「行こうかっ！」と明るい声で彼の顔を見上げて言った。彼の身長は170センチ以上あるので私からしたらだいぶ背が高い。

　家を出て、手を繋いで歩くだけで一瞬で楽しい気分になってきた。どうして彼と手を繋ぐだけでこんなにテンションが上がるのかな。

　それから彼とたくさんお話をしながらカラオケ屋さんまで向かっていった。

　彼とお話するだけで、さらにワクワクしてきた。

　カラオケは、『幸せ割引』の中でショッピングや遊び代に分類される。

　ショッピングや遊び代は『幸せ度合い』の高さの上から半額、三割引き、二割引き、一割引と割引が適応される。『幸せ度合い』がブラックの人には、割引は適応されず通常料金のままだ。

　『ピンク』の私はもちろん一番割引率の高い半額で、遊べる。

　ちなみに遊び代でほかのものは、漫画喫茶利用料やビリヤード代やダーツ代などがある。

　他にも『幸せ割引』が適応されるものは、本当にたくさんある。

　もちろんそれごとに割引や優遇されることは違う。

　私はこれらの割引や優遇されることを覚えるのに時間がかかった。

　まだすぐにわからない時もあるけど、それらの計算は私が何も言わなくても、『幸せ度合い』を見た店員さんがやってくれるからいいかと思っている。

　カラオケ屋さんに着き、私たちは先に会計を済ませることにした。

　私は「二人で遊びますが、個別会計でお願いします」と言った。

　店員さんは返事をしてくれてから、「使う機種はどれにしますか？」と聞いてきた。私はいつも使ってる機種を選んだ。

　私たち夫婦は、財布を別にして生活しているわけではない。二人のお金をわざわざ分ける必要性を私は感じていないから。ちなみに、私に小遣いがあるわけでもない。

　でも、個別会計にするには理由がある。

　そんなことを考えていると、私の後ろに並んでいる人がなんだか騒がしかったのでちらっと振り返った。

　その人は男性で色黒で髪は金髪、破れたジーパンを履いていた。

　そして、私より少し年齢が若そうだった。

　人を見た目で判断してはいけないけど、私自体がかなりの色白で唇の色なども薄いピンク色なだけに、その人の顔の色の濃さに驚いたし怖そうな感じがした。

　少し直視していると、「お前、『ピンク』かよ」と突然言われた。

　私が何も答えずにいると、その人はそれ以上は何も言ってこなかった。

　彼は、「大丈夫？」と肩を抱え小さな声で聞いてきてくれた。

　私は「うん」とだけ言った。

　最初はこの人が何を言いたいのかわからなかった。

　でも、その人の『幸せ度合い』をみると、『ブラック』だったので、納得がいってしまった。

　それで少し悲しくなった。

　きっとこの人は、自分は一切割引を受けられないのに、私が半額になることをよく思っていないのだろう。

　相手を不快にさせてまで、自分の感情を優先するのはなんだかよくない気がする。

　でも、どうしてかその思いをすぐに言葉にできなかった。

　その時私は同時に少しだけ疑問にも思った。

　確かに『ブラック』は、『幸せ度合い』の中で一番低いけど、少しは幸せであると思う。

　『ブラック』だと不幸せだということではない気がする。

　それなのに、『幸せ割引』を全く受けられないのは、どうしてかな。

　こんな風に考えたのは、これが初めてだった。

　それに、ショッピングや遊び代などの少額のものならまだいいかもしれないけど、高額とされる買い物にも『幸せ割引』は適応されるのだから。